エスケープキーで 音楽が止まります。

白い 山紫陽花の花の 画像です

宮嶋・J・いつく さんのページ



熱帯の夜風まとわる憂き胸に
からんと氷の音色吹きぬく


静寂の池に奏でるハンドベル
春を愉しむモリアオガエル


千枚の空色映す早苗田に
田植え囃子の笛吹く斑鳩


殺伐とした隙間風吹く部屋に
名もなき野辺の花を召しませ


ことさらに緑の木々は輝いて
五月晴れの空色に映ゆる


郷の杜春例祭の幟立ち
農事暦の年明けるなり


這い上がりても生き抜かん風雪に
倒れし木にも桜咲くなら


惜しがれど憾みに思うな花散らす
雨に田畑の土はやわらぐ


春はもう近きにありや萌黄色
かったる圃場に白鳥はなし


黒雲を切り裂き照らす月光を
浴びてわたしは月夜の鴉


暗闇に凍れる街の柳越し
鬼火を背負った蒼い満月


空っ風に打ちひしがれた魂が
幽鬼のように立つ四畳半


友を立て悪名負った青鬼の
犠牲を僕は示しているか


いざとなれば鬼神と化してみせるから
春の陽気だ寝かせておくれ


鬼の角隠してないか探るけど
僕にはどしても天女に見える


北風が背に寂しい夕べには
炬燵にとぐろ巻いて寝ている


風邪引きの無念きわまる吾輩の
気持ちを癒す生姜湯一杯


新雪に足跡つけて歩み行く
見えざる先の道をつけつつ


この年も会わずじまいのお方から
今年もハムの歳暮が届く


良い時も悪い時もこの一年
あって今年は吉年である


年を越すまで数えるくらいしか
来ない晴天さあ大掃除


今年こそ来年こそと発念し
何時になったらはじめるのだろう


嬰児は閉じた瞼を動かして
いかな未来をその瞳に見ゆるや


山積みの年賀はがきがいっこうに
低くならない月夜の冬至


寒風のすさぶ師走の九日に
産声上げた命の灯


年の瀬を渉る今なら来年を
語っても鬼は笑わぬだろう


眼前の大山裾を燃え立たす
今年一番の御来光なり


今夏よく実り見せたりツルレイシ
来年に蒔く種は寝て待つ


冬空にかかる星座は美しく
見上げる我の身は震えてる


からっとした空が似合わないぼくは
きのこの生えた部屋で待ってます


きのこ鍋湯気にほんわか温もらる
笑顔と空気が家族なるやも


奥山の実り薄けり二つある
香茸ひとつ熊に残そう


失って痛むから恋 傷を得て
認める これは恋だったのだ


落武者のように時雨の中歩く
疲れ、怯えつ、生き延びようと


〆られた鯖のような目しているし
おれにゃ脂がよく乗っている


鬱々と沈めるおれに青空は
空元気でも出せとのたまう


せわしなく箒持つ手を動かして
きれいさっぱり忘れたいのさ


毛が三本足りないぼくの心臓の
砕けた欠片を探してくれよ


行きずりの恋と知りても君慕う
こんなわたしを嘲りたまえ


千年の大銀杏樹の胸を借り
てっぽうを張るわたしがいます


爽やかな清涼水とも気を締める
白湯とも我はいずれにありや


方円に四角と自在に調和する
水のごとくに我もなりたし


あふれ出る水の冷たさ手に受けて
見えぬ世界にwaterを知る


荒れ野原花咲く脇をくぐり行く
セイタカアワダチソウのアーチを


水鳥の飛来の報を音に聞き
秋深まるを感じる夏日


我思うゆえに我あり身を切りて
感じるまでもなく我はあり


風に乗り響く鼕の音床に着く
我にも秋の深まるを告ぐ


白く刷毛かく雲高き空の色
映す湖水もまた秋の色


一日の憂さもともども流れ去れ
グラスひとつの水割り焼酎


瀬戸内は夕凪小波島渡す
小さなフェリー月の下行く


花街の三味線のよな虫の音に
小鉢叩けば月も踊るよ


天体は神の証人幾千歳
変わることなく世を照らし出す


虫唄う月見の歌を風に聴き
酒盃傾く静かなる夜


庭先に歌う鈴虫誘われて
外を見やれば蒼月の夜


わびしさも憂さも流して忘れよう
鼻歌うなり一人晩酌


上手い下手じゃないよ幼子の歌は
誰もが笑い拍手するでしょ


気がつくと口ずさんでいるメロディ
幼き日々の流行歌謡


秋の香を含む夜風にざわむ穂は
満作祝う微かなる歌


そよ風に刈穂の香りかぐわしく
初秋夜に浮く裸の早稲田


木の枠のガラス窓開け風入りて
南部鉄風鈴の音を聞く


夕暮れの未舗装街路かたぴしと
身揺らし走るオート三輪


出涸らしの番茶飲み干し卓袱台の
上に転げるひび割れ茶碗


縁台にグンゼのシャツで夕涼み
日長の路地にせわしなさなく


子ども等の書き残したる輪の上を
人無きを見て跳ぶけんけんぱ


陰陽を征した軍の音声は
過ぎ去り蝉の声のみ響く


虫けらに五分の魂と解れども
ごきぶりを打つ手に容赦なし


見上げればしおから蜻蛉群れ成せり
高く広がる夏空を背に


物憂げな季に薄紅色飾る
合歓の花冠を君の頭に


やみ間なき雨に羽毛も濡れそぼり
ででっぽっぽと鳩低く鳴く


岩場行く蛇の進路は蛇が知る
我が行く道は誰か知りたる


人里で追わるは熊の本意ならず
山豊かならひそやかに居り


雨の朝だけどもきっと晴れるよと
遠足リュック抱えて行く子


蝋燭の灯りの先に揺らめいた
短い夏の夜をいとおしむ

雨脚の太く降り落つ豪雷雨
濡れ縁に立ち足に感じる


日に焼けたアスファルト面に水を打ち
霧立ちのぼる夏の雨降り


草陰に川面に空に淡き線
描き蛍舞う初夏の幽幻


しょぼしょぼと薄暗い雨気持ちだけ
晴れになりませ花柄の傘


山一つ具足に固め立つ城の
威風にざわむ葉桜蒼し


武士の血に洗われた城に今
平穏無事を歌う不如帰


朽ち果てた雲突く山の城跡に
吹きゆく風は永久に変わらず


奥山の棚田を恵む雨落ちて
村に沸くかえるの山彦


甘口のキールロワイヤルの唇を
吸ったら君は怒るだろうか


花々の迎える道をひた登り
立つ頂に天界の風


甘酸っぱい苺ムースのモーニングコール
君に甘えて朝寝の余韻


澄み切った晴天高くなるほどに
心悲しく落ちるはなぜに


甘言に酔いしれ踊る後味は
辛いと書いてつらいとぞ読む


寺が庭漂う藤の芳香は
誰の墓前に奉ぐるものか


春も早や過ぎ去らんとす名残とて
皐月の空の雲成せる藤


このラーメンコクは少々味はなし
払った金がことさら惜しい


人生そう甘からず口に出さずとも
その渋面が主張している


歌心歌詠み心三十一の
文字なる淵に潜りて探り


筆先の裏より見つめ歌人の
瞳覗かば心察せぬや


味気ない日々にはあらず折々の
味知るほどに咀嚼せぬのみ


幾星霜風雨雪にて巌の山
奇しく磨き玉峰と云う


春嵐に八重の桜も飛び散りて
雨と飛び込む行く春の味


寒戻り篠つく雨に散り落ちる
最後の花は何処へ流る


空山の野辺の蕨を積む指に
ふわりと山の桜舞い散る


砂地野の三尋の地下に根を伸ばし
咲くタンポポの可憐なる花


桜散り香り微かな花絨毯
吾踏み行けり春雨に濡れ


光度増す春の陽光はらはらと
散る花びらに白く輝く


沿線の菜花小さな旗を振り
上り列車のテール見送る


風に耐え巌の狭間に根を穿ち
咲かす花あり彼は野ダイコン


トタン屋根小気味良く打つ柔雨よ
花散らぬよう心して降れ

羅紗霞払いのけたる銀の月
夜桜白き光に射抜く


去りきらぬ冬の空気を含む夜の
桜見酒は熱燗がいい


春雨に似ぬ強かな雨風に
早散る花の香も芳しい


春を待つ桃も桜も花つぼみ
ほころぶ日までもう一眠り



春の香を菓子に包んだ桜餅
食めば鼻腔に渡る春風


谷奥の一本桜花衣に
包まれいよよ春は来たれり


春の陽の残滓含みてほの温き
夜風に香る白梅の花


上あごと鼻の間に春の香を
大きく吸って噛むふきのとう


足早の春を包んだ風が吹き
山々の雪溶き解いてく


北帰行前の腹ごしらえをする
白鳥早き春雨の中


言の刃を真綿で包みぶつけても
悪意の角で傷つく心


紅白の梅の香りを含む風
近づく春の色付けてゆく


はやされて告白をした
泣き出して拒絶をされた そんな初恋


黒と朱の染みに汚れた心根を
赤裸々に告げ真白に反す


二股をとがめる君に打ち明ける
実は三股をかけていたんだ


強面の悪鬼見受けず粒玉の
邪鬼はわらわら政事の堂に


口ずさむ鬼首村の手毬歌
呪われし血の雨しとど降る


目に浮かぶ子らの高鬼氷鬼
人影のなき神社の庭に


野辺に咲く無垢清楚なる百合も良し
艶し襦袢の鬼百合も良し


一事の鬼となりたき気もあれど
怠けを誘う心の小鬼


告白を胸に百里の旅をして
逢えずじまいをどうしたらいい


喜怒哀楽福禍のいかな日も
産まれいづ日の星ぞ輝く


四日後の給料日待ちわびながら
空の財布を弄んでる


冬将軍退いて日輪進駐し
光視床下部に突き立つ


吐く息の湯気も吹き飛ぶ寒風に
牛もひづめをこすり合わせる


肌を断つ冬の波濤が身を叩く
親父の熱き拳の如く


雪融けに濡れた舗装に雲立てる
冬の陽射しはやさしく強く


雲塊の過ぎ行く後に陽は差して
雪に輝く春日にも増し


音も無く雪雲座り山の木々
六花満開寒の日の朝


黒雲を裂いて茜に天を染め
空と大地の間に黄金の陽


光あれ神宣ひて照らさるる
地球のうちに吾ら生き居り


肝胆に沁み込ませつつページ繰る
指をとどめて神の書読む


母の手紙二言目には小言かと
毒づきながら顔はほころぶ


凍えし身湯浴みに癒えり湯気越しに
眺めし冬の三日月は銀


雲晴れて冬将軍の退きし後
十六方に雪抱う山


氷踏み肌切る風に身をゆだね
冬の大三角に吸われる


醒めぬ間の師走の朝日音も無く
立つさざ波を輝かしたる


断りの手紙読む目に呆然と
宙ぶらりんの書きかけの文


雛鳥のように歩みし学童の
頭下げ行く吾の待つ前を


朝霧の海に山々島となる
墨画黄金の陽に彩らる


筆ペンの署名を終えて手を置いて
相手の表情を思い浮かべる


お茶の間に差す陽光か幼子の
無邪気な仕草幼子の笑み


懐かしの山村行けば村人の
言葉にほのか秋の陽だまり


木枯しに銀杏散りけり傍らに
汝が影無きを寂しく覚う


裾なびくトレンチコートのポケットに
ウイスキー瓶のひとつありゃいい


秋雨に冷えたる夜はほの温き
ビターコーヒー身に染み渡る


灯明を静かに落とし山霧の
羅紗に透かして観る栗月夜


夜も深し人の温もり欲しつつ
万年床に枕を抱いて


大山は朝に火神の様を成す
東の肩に来光を背負い


閑かなる湖城の街に鼕の音が
響いて風に秋の色増す


朧げな夜明けに浮かぶ明月を
捕らう湖水にさざ波が立つ


晩秋の訪れふれる風下ろす
谷の刈田に子等駆け回る


秋の虫奏でる月琴風に聴き
今宵の酒は静かに進む


月光は六十四方に放射して
魂を取られた人影映す


突き刺さる月の光の妖かしに
酒盃傾く手も止まりたり


酒盃に受けたる銀の月を呑み
脳の髄まで酔い痴れている


秋霞宍道湖面の大凪を
切って進むはしじみの漁船


金色の稲穂を刈る手進ませば
陰の蝗が飛び出していく


今日に生く希望となりや東より
遥か遠くに燃ゆる暁


古城より遠く眺むる光景に
いにしえ武者の眼差しを向く


いつになく短き夏も暮れ行かむ
季節外れに聞こゆ蜩


あどけなき顔で寝息をたててる子
ギブスを巻いた片腕に慣れ


朝霧は色を濃くせり電線に
ひとり佇む鳩は何見る


秋雨に洗われた風そよぐ浜
海の遠くに隠岐の島影


幾億の波濤の鑿は年月を
かけて巌に神像を彫り


長い髪ばっさり切って秋風に
吹かれあの娘はひとつ大人へ


肥えている客には「社長」痩せている
客には「先生」盛り場の常


城跡の木立抜く風過ぎ行きて
残した蝉の輪唱を聞く


賑やかな祭りの音に気もそぞろ
宿題山と積み上げたまま


図りても図らずも発す言の葉は
射りて戻らぬ矢の如くかな


柔らかにくぐもる中波電波受け
ラヂオから聞く昭和のフォーク


君の手を肌に感じる熱帯夜
上がるばかりのテンプテーション


雲間より顔のぞかせる夏空に
陽を請う稲穂背伸びして立つ


脳髄を曇らすほどの苛立ちと
暑気打ち払え夕立の風


青く抜く空に心は時に浮き
時に曇りの気分屋な吾


大輪が開き爆音轟いて
次いで湖面に涼風が吹く


夏の夜の空を飾りし大花火
湖水に映えて輝きを増し


何十と上がる花火の光景に
立ち眩むほど飲み込まれてる


梅雨空に向かいまっすぐ丈伸ばし
向日葵夏の陽光を欲す


煩いの街を抜け出で岩走る
滝の早瀬を枕に寝たい


航路図を見ることもなくまっすぐに
ツバメは帰る生まれた街に


心臓はバクバク腕はびりびりと
鳴れど闘う日はまだ暮れず


水無月の雨の滴る石亀も
紫陽花寺の夜を愛でしか


妖精は背につけしかせせらぎに
軽やかに舞う川蜻蛉の羽


迸る水に削らる巨大岩
抗い座すも楽ならざりや


苔生せし巌を叩く滝の音に
心洗えり白く澄むまで


スタジアムカーンと響く金属音
響く歓声夏の到来


岩の間を流る早瀬に足曝し
脳の髄までひんやり涼し


夕空にじわじやじわと蝉が鳴き
夏の訪れ促している


梅雨空が開けて風吹き笹百合の
花にぽつんと露が弾けた


しょぼしょぼと長く降る雨霞む道
君が来まいか窓の外見る


キャンドルと一輪生けた花差しが
食卓の上君いまだ来ず


どうどうと響く滝の音岩壁に
染み入っていく峡の静寂


トタン屋根叩く雨音ぱらぱらと
響く軒下一人佇む


もぎたての色もぎたての青くさみ
採りし胡瓜をぱりんと齧る


色々の傘を咲かせて行く子らの
横をアクセルふかさず過ぎる


天が落つ程の雨止み吹く風は
方舟出ず日の風に似しやも


稲妻が閉ざせし瞼貫きて
心に叫ぶ雷の声


したたかな真夏の雨にささくれた
心と涙洗い流して


降りしきる驟雨を受けた速き瀬に
石は流れて木の葉は呑まれ


紫陽花に這う蝸牛見つけたと
指差す君は蛇の目を差して


長靴で蹴立ててはしゃぐ幼子に
雨水の池は海ほど広きか


蛍舞う夏の来たりし谷の道
燈火を消してゆっくりと越す


どげですかまめなかですか勝手知る
顔を合わせる田舎路のバス


しょぼたれた空に哀しく飛んでいく
濡れ羽色したからす何処へ


かきよじり登る山道視界開け
見下ろす海はことのほか青


初夏の森の小径が散歩道
木苺三粒頬張り歩く


人生の大海原に風が吹く
信じた航路にいざ帆を揚げん


箸先の飯に大きな口開く子
たんと食べろよ大きくなれよ


カルガモのひよこのごとくよちよちと
一列に行く園児お散歩


葉桜と皐月の空は青にして
なんじゃもんじゃは雪の雲成す


傘を持ち迎えの母に背を向ける
服濡らすのが申し訳なく


ぴいぴいとつばくろの雛口そろえ
親に甘える軒下の家


足元を見やれば花に新緑の
木漏れ日の差す散策の道


新緑をさわさわ鳴らす風吹けば
踊る姿の一尺の藤


「昭和顔」なる言葉まで出るにつれ
昭和はいよよ遠くなりたる


クッキーをひとつ差し出す小さき手
受け取ればまたほころぶ笑顔


少年の日を思わせる昂りは
新たなる知に伴いて来る


春雨と思えぬ雨は強かに
山を洗いて緑清けし


湯気の立つ飯にまぶした板わかめ
浪立つ海がほのかに香る


若竹の香りが風にさざ揺れて
心落ち着く春の竹山


草餅をひと口かめばのどを抜け
鼻に広がる緑の季節


鍬を入れ起こすそばから黒土の
香り太陽の香りと混ざる


高らかにエンジン鳴らし土を打つ
蛙ねぐらを替えに立ち去る


花冷えの風にも堪えて咲く花は
天道の陽にはらはらと散り


花散らす雨が流れて一滴
桜の淡き香水となる


風吹けば花の雲より降り積もる
花雪を踏む足に色付け


またたび酒飲んでまどろみ寝る俺の
尻のにおいを嗅ぎに来る猫


春風が鼻をくすぐる桜土手
ひらひら花が川面に流る


「泣いてない」と強がる君に頬寄せて
涙のにおい鼻に感じた


冬の雲去りて細波む湖に
姿を映す春の夕景


萌え出る草の香りが身を包む
昼寝日和の春ぞ来たれり


くたびれた背中の歌うブルーズが
哀しい空に響いて沁みる


春を呼ぶ嵐来たれば白鳥の
姿は遠くシベリアの空


取れかけのシャツのボタンを付け直す
君の指先をただ見つめてる


陽光のまぶしさについ眩暈して
飲む暁のブラディマリー


春の夜に霞かかりて朧月
ギムレットにも色合いが似る


燃え上がるようなテキーラサンライズ
ストローを吸う口元も紅


愛の糸忠節の糸織り合わせ
ふたりの家に錦飾らん


行過ぎる冬の別れの餞別か
桃の節句に春の雪降る


掌に降る春の雪受け取れば
水へと融けて肌に流るる


ぼた雪は春待つ原を染め直し
咲く紅梅を白梅に変え


熱淡く帯びた身体を抱き合えば
生チョコのよな口溶けの夜


早春の大地に鉄の爪立てて
赤いトラクター元気にうなる


我が身にはどこの引き出し開けども
カラッポにして何もあらざる


外せないサソリ固めのスケジュール
ロープに逃げたい戦場の日々


湯気の立つロックグラスの一杯に
ピアノジャズ聴く午後十一時


窓明かり一条伸びてオリオンの
懐めざし夜汽車が走る


一番に勝ってまた一番に負け
星取表の一行となる


人生の大金星を挙げるべく
虎視眈々と平幕の吾


星隠す雲の鎧戸押し開けて
煌々と照る冬の望月


道端の風に揺られて水仙の
花が一輪待ちぼうけの午後


鬼か蛇か何れが出てもうろたえず
世は無常にて塞翁が馬


悟りたるごとくに迷い振り捨てて
鬼に化けても一事に励む


生ぬるき風に柳がさざ鳴れば
鬼火背負いて立つ影ぞあり


時として鬼に涙の一粒も
あるにこの世に無慈悲さが増す


鬼薊荒漠の野に花一輪
手出し摘むにも棘に手が出ず


突き抜けるほどに澄みたる夜の空
聴けばかすかに星のシロフォン


雲の無き凍てつく夜のオリオンに
瞬く三つの星を見つめる


ぎこちない笑顔の吾とはにかんだ
君がセピアの写真の中に


新雪を踏み捕まえて歩き行く
雪走る道に一迅の風


降り積もる雪は柔かく音包み
深き静寂我が耳を打つ


香り立つ夕餉の鍋を囲いたる
家族の笑顔湯気のあちらに


雪肌に金襴緞子の衣羽織り
神々起こす暁の山


寒締めた身体を風呂に沈めれば
毛の先までも温まるるよう


吐く息の白む夜道を肩すくめ
歩く先からチャルメラの音


陽だまりの縁の先にてたたずめば
猫も寄り添う風止みし午後


七輪の炭火に向かい手を伸ばし
赤く燃ゆる火じっと見ている


ちんちんと沸く鉄瓶の湯を注して
点てる抹茶に気も温まる


せめてもの人と人とのぬくもりを
感じたくなる凍つる世の中


のどを焼くほどの辛さを胃にふせば
尻の穴までさらに焼け付く


無きにしも非ずと思ふ吾の才
何処にありか分らぬけれど


ぎたるも及ばざるるも罪ならば
岩猿となり言を捨つるや


山畑に老婆笑いて取り入れつ
「日の暮れるまでおちらとやるわ」


てのひらにおちてはとけるわたゆきに
むじょうのよをばおもうたそがれ


雪玉を押し転がして転げたる
子らの湯気立ち赤らむ笑顔


冬枯れの林に春の先触れか
木々に名もなき雪の花咲く


忙しさに心のひだも硬直す
日々の憂いに取る笑い袋


年越しの蕎麦をすすりつ談笑す
家の灯りにちらちらと雪


足早に年は暮れ行く来る年の
幸せ祈る空に白雪


怒りまた泣いて笑った過ぐる年
願うは笑いて渉る年の瀬


雪かむる山道脇に目をやれば
凛然となるへびいちごの実


山なみに真白き雪の羅紗広げ
雲井の陽光映ゆらす芸術


風吹きて粉雪の走る庭の先
ふくらすずめが首をすくめる


雪を請う声も聞こえりたんまりと
山には積もれ街には降るな


しんしんと染めたる雪に染め上げて
墨画にも似た街の面影


悩む振りする小さき身でかくなりたい
海原と空に吸われて


落つ雪に髪濡れぬかを案じつつ
手に真っ白き息かけ待てり


白雪の冠戴きし伯耆富士
澄む錦海の鏡に映す


一杯の酒をあおってくだ巻いて
晴らせる憂さは何キログラム


180cc分のため息を
苦い涙とともに飲み干す


缶コーヒー冷たい頬に押し当てる
摂氏4度を下回る朝


朝焼けの燃ゆるを見たさ湾岸を
750cc飛ばす


一人寝の冷めた身すくむ午前二時
初冬の夜に切れ間なき雨


幾万の波濤を越えて流れ着く
無人の浜に椰子の実一つ


厳しく逆巻く波が背中を打つ
平手に思う親父なる海


鉄塔がひとつふたつと浮かび来る
茜色した柔らかな朝


幾ばくの価値のありしか吾の持つ
才はポッケの十円硬貨


吐く息の白む未明の北天に
散る幾千の星を数える


幼子の肩まで浸かり百かぞう
姿眺めつ長風呂をする


雲井よりきらめき落ちる陽光に
神々の行く足音を見た


この道を行けと心に語られる
聖なる書に神の声聞く


旋律のない楽譜にて奏でるは
こころ模様に素直な調べ


大橋を渡る鼕の音鳴り響き
水の都の湖面さざめく


心音が高鳴り響くこの鼓動
恋のときめき? いや、不整脈


憂の字を額に刻む吾が姿
包む月夜のなんと蒼きか


星の夜にお道化て歌う横恋慕
スリーコードのブルーズに乗せ


カーラヂオ「バロックの杜」聞きながら
吾黙々と闇を眺める


放たれし月光の矢に射貫かれて
美のあやかしに心囚わる


灯篭の並ぶ街路で見上げれば
うろこ雲越し月の灯篭


幼子の吾呼ぶ声のつたなきよ
愛くるしさに寝るも能はず


紅の朝日出できて貫けり
秋の霞と吾の眼瞼を


島々は雲に煙らる瀬戸内の
小雨混じりの潮騒を聞く


雨降りの坂の小径をゆるゆると
歩く姿に蛇の目が似合う


天にまで響く太鼓のどんちっち
調べにあわせ大蛇が踊る


温かく差し出されたるおにぎりの
涙にも似た塩味ほのか


言の葉の色紙こめた万華鏡
まわりまわりて無限に変化


ICUに運ばれてゆく吾が父の
生はか細き管につながれ


刈りたての稲穂の香りはで干しの
稲穂の香り秋となりけり


梨の実の甘露を舌に転がせば
時がゆるりと喉に溶け入る


夏痩せに効くと申せど痩せずとも
夏でなくともうなぎ食いたし


旭日は黄金の光鷺一羽
湖面に飛びて「嗚呼」と鳴きたる


錦海の湖水悠々旅鳥が
波に揺揺紅色の朝


処してなお残る暑さや瑞々しき
二十世紀梨を頬張る


豆絞り巻きてそば打つ小一時間
ものの五分でみな平らげる


心浮き笑い止らぬこの気持ち
赤いきのこを食べたせいかな


生命が吾が肉となり骨となる
「いただきます」と唱える心


蝉時雨縁越しに聞く客間にて
帰る弟の夜具を準備す


家路にて吾を迎える母の湖
思いもかけぬ花で飾りて


豆しぼり法被姿にさらし巻き
女神輿のいなせな香り


翠玉の眼光らせオニヤンマ
悠然と飛ぶ虫の雄なり


笛太鼓囃子に湧きしお社に
一夜も明けて静寂の朝


からころと木の輪をくぐる下駄の音
社に響く水無月晦日


悠久の湖水の上に花火咲く
水都松江の華やぐ夜に

ちろちろと燃ゆるやさしき灯火に
君を見つめるキャンドルナイト


街の灯も喧騒もなき高原の
夜風に聞こゆオカリナの音


小雀の目覚むるる刻西向かば
夜明けの空に浮かぶ月あり


星明り見上げて歩く田舎道
はぐれ蛍が昇るのを見る


白砂は月の蒼きに静まりて
夜の砂丘にさざ波の音


くたびれた背中引き摺り赤提灯
夜の更けるまで手酌のビール


頬撫でる風にさわさわ揺れ動く
草葉の上に蛍舞う夜


インディゴの大海原に染め返し
皐月の空に浅葱広がる


何気なく破り続けた日めくりの
暦気づけば半分となる


日に次いで日を重ね行き刻まれた
しわのよる手を手に取り撫でる


萌黄色彩る山に薫る風
吹きてゆらりと藤の花房


刺すような夏日の日差し母の日の
カーネーションは枯れはしまいか


昨日今日菜漬けで冷や飯食いながら
心待ちする給料日かな


汗まみれ固まりし地に鍬打てば
黒土起きて活き活きて居り


取り出さる白磁の碗に香気良き
新茶を注ぐ立夏の茶席


あかあかとあかく輝く落日は
海焦がすよな紅蓮の火焔


薄紅の花ならずとも粛として
花嫁のごと御衣黄は咲く


山霞人目に隠す艶やかな
花の姿を吾にのみ見せ


霞去り穀雨の空に雲あらじ
立夏に向かう葉桜は青


花散らす雨は春とも思えじや
冷たき風に枝葉震える


風に乗り露天の風呂に舞い込んだ
花びらひとつゆらり長風呂


春山にぽつぽつ点る桜の木
雲は成さねどさびしくもなし


路傍の煤けた風を身に受けつ
凛として咲くからし菜の花


湯の街の川面を抜ける風吹けば
桜の雨がはらはらと降る


流し雛吾子の息災幸福を
桃一輪に願を託して


花なくば武骨な幹の桜木に
紅と咲けよと一献注ぐ


物憂さを受け流せれば雨風を
柳の枝に流すがごとく


春風に潮の香りをかぎながら
野ダイコン咲く原にまどろむ


春うらら渡る山間に夜闇垂れ
谷にほのかに照る花明かり


鶯の鳴く声乗せて谷渡る
風が桜の花を撫で行く


緋毛氈野点の席に風吹きて
茶碗の中に桜ひとひら


マウンドにグラブを置く日「さよなら」と
ボールにそっとつぶやいてみる


故里はダムの底へと消ゆ定め
旅立つ前に目に焼き付ける


我が友の旅立ち歩むこの道を
明るく照らせ春の望月


去る吾が悪いのだから雨の中
見送る君を振り向けず行く


雛鳥の巣立ちゆく日に吹く風は
花のほのかな香り含みつ


道の先霞に消えて吾が肩に
黄砂混じりの春雨が降る


明けやらぬ空に描きし雁行陣
風を捉えていざ北に行く


団欒の一家囲みし卓袱台の
一輪挿しに紅梅の枝


飛沫揚げ逆巻く浪は岩叩き
吾が魂の鼓を打ち鳴らす


春を待つ庭木を眺め広縁の
陽だまりの中梅昆布茶飲む


庭先に咲く紅梅に指触れて
如月の雪踏みしめている


なんてことない一日の幸せに
君と梅酒で乾杯の夜


心の淵嫌悪の種と向き合えば
尻をたたいて鬼から笑う


知らずんば危うかれども唐渡り
疑心暗鬼で腹も痛がる


豆食わば出て行くものか一〇八に
収まらぬ色とりどりの鬼


雨の日も雪降る夜も鬼瓦
四隅護りて睨みをきかす


鬼面を被る夫に鬼は外
妻のぶつける豆は強か


花香る梅林を抜く春風に
鶯笛吹き鳴らしてみる


浮かぶもの描き続ける言の葉の
三十一のクレヨンを手に


積雪に大の字になり身を埋む
心も白く溶けるだろうか


縫い針も糸も使えず言の葉を
つづり合わせてつぎはぎの歌


明かしたくなき秘め事を探られば
玉虫色の言葉で答え


鴇色の朝日は影を取り去りて
伯耆大山白金の峰


音立てて吹雪きし冬の街見つめ
窓辺でホットココアを口に


群青の海越し望む隠岐の島
姿明かせし風澄みし午後


星も消え街の灯去った田舎路に
テールランプの紅だけを追う


慕うほど君が心は万華鏡
色に色変え知るに能わず


薄明かり明け間に浮かぶ嫁島の
常盤の松に白雪の冠


野も山も真白き雪に覆はれて
清やかなりし元旦の朝


赤い服白タキシードに召し替えて
笑みは変わらず立つ紳士かな


雲低く星なき夜の灯を消せば
東に燃ゆる暁ぞ差し


寒風に締まるこの身を癒したる
湯煙の中ゆず湯の香り


懐に抱く珠ありあどけなき
顔に和みつ吾が腕揺する


吹く風もせわしく過ぎる年の瀬に
少し足止め煎茶一口


鉛色師走の空の吹く風に
朱色引き立つ津田かぶ揺れる


進みてもまた進みても道の上
何処に立てど井中の蛙


初孫を抱きたき父母の視線受け
産まれたての子静かに眠る


今年また光を灯すルミナリエ
希望きらめき復興を見る


雲の色映す堀行くこたつ舟
師走の城下初雪ぞ降る


休日は山のあなたの露天風呂
お猿の酌で顔紅く染め


もう消えた恋の炎は過去のこと
嘯きつつも隠せぬ気持ち


日は西へ船は港をあとにして
沖の波間に漁火の群れ


はやされて涙ぐむ目の男の子
毬栗頭に秋風が吹く


夕暮れのポプラの下で待っていた
初恋は遠き日の花火か


暁に燃ゆる東の空見れば
雲のまにまに黄金の光


かじかんで火照る紅葉の手のひらに
我が掌を重ねそおっと包み


松明の火が列をなし大山の
中腹光の帯を締めたり


山裾に陽は急ぎ落ち夕の闇
ホットココアでくつろぎの時


家々の納屋の二階を朱に染めて
干し柿作る村に秋風


砂浜に夏の盛りの賑わいは
失せ閑にして水は澄みたり


涼運ぶ戌亥の風に乗り込みて
白鳥来る一報を聞き


頭垂る黄金の稲は銀の米
さらに澄みたる清酒の色に


御城下をとどろく鼕と笛囃子
響き吸い込み秋晴れの空


野っ原に咲きて燃えたる彼岸花
紅色褪せて秋ぞ深まる


丈高き薄の茂る荒れ原に
曼珠沙華咲き彩りを添え


鰯雲たなびく空は水浅葱
高くなるるを覚えつ見上ぐ


長雨に洗われし空見上ぐれば
秋の星座は慎ましくあり


過ぐる日を惜しみつつ陽は傾きて
沈み行くほど残照は増し


明鏡の水面に浮かぶ月掬い
たらいの中にもうひとつ月


三日月に難苦を願う武士の
勁さに我は憧れを持つ


葡萄酒に瑠璃の盃陣中の
宴に渡る西涼の風


望月を酒盃の中に受け取りて
月を呑み干す夜の戯れ


両腕に積もる話を抱えつつ
訪ねし友にまずは一献


ため息も泪も酒と飲み干して
目覚めた朝に空は晴れなむ


現場焼け小麦の肌に玉の汗
冷えし麦酒が染み渡る夜


舶来の高価な美酒にあらねども
葡萄酒交わす些細な贅沢


参詣の客を迎えたコンコース
草生す中にD51一両


遠き日の幼き瞳に焼付けし
グラマンの影今も忘れじ


きらきらの夏空高し軒先で
猫も四肢伸ばして昼寝


つらき日もあれど笑顔を絶やすなと
励ましてるよな向日葵の花


響きたる金属バットの快音に
歓声轟く夏の球場


雨上がり涼みに出たる庭先の
赤ナスほのか色づくを見ゆ


ひと夏の恋の情熱映すほど
まぶしく咲けり向日葵の花


カレンダーめくり見つけて笑みが出る
13日金曜仏滅


間歩の壁刻む鑿跡手に触れて
掘子の振るう槌音を聞き


常盤色木々みな雲をかき出し
天平古道山霧の中


星空は雲の影にて人目なし
しじまに睦む牽牛織女


夕立に雷落ちる昼寝する
どの子のへそを取ってやろうか


登録の歓喜に沸く銀山の
間歩の奥底静寂の中


空蝉と七日飛びたる成虫と
背中合わせに静かなりけり


草の陰木の葉の陰に蛍火の
実を見つけたり月のなき夜


惜しくとも吾は旅鳥貴女とは
船出を前の夏の夜の夢


分け入れば川蜻蛉飛ぶ渓谷に
飛沫を降らせ滝の轟き


雨降りの朝のけだるさかたわらで
猫しゃがみこみ顔洗いたり


今日もまた変わりばえせぬ一日と
言いても同じ日は二度となし


蛤を鍋に熱して酒を注し
蒸すかのような雨上がりの陽


蔓草は生命の象徴人立てし
杭にその身を二十重に巻きて


万緑に真白を飾りやまぼうし
雨に鮮やか耀ふ錦


マホルカの篠突く雨が窓を打ち
ピアノフォルテに雨だれ流る


東より燃ゆる暁黄金の陽
しと降る雨を先触れる朝


したたかに降りたる雨を呆然と
見つめる子あり遠足中止


恵みなる天の甘露のありがたや
蛙歓喜の歌を合唱


甘口も苦きもあわせ飲み込むは
つらきことかな夢を食う獏


狐の子どろんどろんと化け稽古
木の葉身体を越すほど積もり


愛込めて波に隠した桜貝
誰か拾ってくれるといいな


運転の若葉の頃を越えたるも
未だ萌黄の葉身を引き締めん


眼前の千尋の壁に立ちすくむ
乗り越える勇気吾にありや


「楽にしてあげる」と言いて幾年も
何もなさざり母の肩揉む


春うらら居眠りうつらその隙に
瞼に目玉描いたの誰だ


鯉のぼり買えぬ飾れぬ身なれども
子の健やかを願うは同じ


目をこすり朝の一服湯の中に
茶柱ひとつ見つけ微笑む


お茶濁す話題でその場乗り切りて
胸のうちでは渋き顔かな


点てた茶の泡のはじける音までが
聞こえるほどの静寂の時


広き空うらやみ見つめ池の鯉
鯉のぼりのごと泳ぎたしやと


山霧にぼかして映える山の色
萌黄の若葉藤の紫


茜色山影に落ち朱を広げ
夕日帰れば藍色の空


春空に尾まで伸ばせぬ鯉幟
柏餅などたあんとお食べ


封筒をひしと抱える両親に
何を買おうか初給料日


明月を鏡の如く磨き抜き
同じ月仰ぐ君に逢いたし


湖底へと沈む砕けし吾が心
掬えど鋤簾の間から落つ


絹物の萌黄を広げ春の山
曇りし空に輝き映し


時半ば命果つるも生きたらん
人の記憶と神の記念に


春雨に混じりて口に飛び込みし
花びらひとつ噛みしむ季節


春嵐にさらされなおも咲く花も
時が来たればうららに散らん


入学す若人歩むその道に
桜の絨毯敷きてぞ待てり


あの方は好きか嫌いか花占い
閉ざせぬ思い花もう一輪


シンナーの残り香薫る新住居
開けた窓より春光注ぐ


静けさを裂いてカタコト走り行く
始発列車のテール見送る


サイレンと蔦を震わす歓声が
包み始まる球児の熱戦


辛抱のつらき長きも流れゆき
いずれ幸せ抱く日来たらん


堀川に魚跳ねたり街中の
濁りし水も住みやすきかな


岩砕く波の拳も振り治め
春の細波砂浜撫でる


メガネザルに似てると言って笑ってる
あんたの顔はゴリラそっくり


春光の注ぐ縁側白折を
すする手を止めしばしうとうと


オリオンも西へ傾く戌の刻
星座も春の暦となりや


塵あくた積み上げられて高くなる
誇りに座るお山の大将


つくねんと枯山水の島の上
陶の大亀鎮座し居ます


木蓮のつぼみが花と開く頃
あの娘は嫁ぐ白無垢纏い


歯の裏にくっついちまったミルキーを
舌をねじって取ろうに取れず


ほぼ毎日同じ時間にいつ見ても
しまっているなこの踏み切りは


スイカ冷蔵庫の奥に何日も
一口食べた苦くすっぱい


持ちきれぬほどの大金はたいても
買えない天国への階段


砂のごとさらさら落ちる幸せも
掌にまだ少し残りて


同じ道共に通った友垣よ
今日でさらばと学帽飛ばす


見違えてきれいだなんて言わないで
照れ笑いするサボテンの花


群雲が晴れて日浴びるコハクチョウ
シベリヤ行きのフライトに発つ


風の音が枝を鳴かせる山道に
虫の羽音戻りつつあり


五分もなき虫飛び立ちてぶわうわん
うなる羽音につい立ちすくむ


煮え立ちて収まりきらぬ腹の虫
静まるるまで雲を眺める


花畑てふてふ追いてひた歩く
うららかな春吾の脳髄


じっと待ち春に踊れる虫の子ら
わが身の羽化はいつにならんや


花纏う梅の木の枝腰掛けて
オカリナを吹くポーポーポケキョ


舟川下り行く流し雛
子らの息災幸せ祈り


黒き肌無骨な幹の梅一本
花の小袖の白きを纏う


気が付けば追われるままの仕事虫
ふと立ち止まりため息を吐く


屠られて食わるる豚も幸せよ
腐りて無為に捨てらるよりは


手間ひまを惜しまず作る手料理に
美味しいと言う笑顔うれしや


磯砕く波の飛沫は東風に乗り
わが身を包む春近き海


水浅葱色に茜をひとしずく
落とせし空よ春はあけぼの


雲去りて日に照らされし伯耆富士
輝くさまに心奪われ


「今食べて」言われるままにかじりつく
もらったそれは石鹸だった


足ることを知らば平安覚えるも
欲の泉の塞ぎ難きよ


オリオンの向こうは未知の全宇宙
心泳がす星座の海に


暁は淡雪の色合いに似る
涼菓の香り薄茶をすする


早咲きの梅の便りを聞きながら
雪花の名残眼に押し当てる


霜降りてきらきらひかる草はらに
仔犬転がる川の土手道


後悔をするもせざるも決断は
己のものぞ吾が生きる道


如月の凍つる積雪望月の
光映えたり明日は立春






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